光る君へ11 「まどう心」

男になった道長。顔つきが変わったと行成に気づかれるまでに変化した。振られてヤケになっているようでもあるが、さすが兼家様の血を引く御方である。目標ができたなら急に手段を選ばなくなった。策謀に加担して肝が据わったうえ、穢れをものともしない。高御座の首の血を袖でぬぐい、他言すれば命はないものと思えとはこれまでの道長らしからぬ物言いだ。先の帝のお力及ばず、ラスボスにはなり切れなかった花山天皇であったが、ご出家されてもさすがのお血筋、神通力はあるのだなあ。

「お前すごいな」まひろの直訴を咎めるどころかその行動力を賞賛する宣孝。「会えただけでも途方もないことだぞ」そうなんだ。さらに家の困窮ぶりを見て婿取りを勧めてくる。北の方に拘らなければいくらでもおろう。どの女子も満遍なく慈しんでおる。若くてわしのような男はおらんかのう。笑った。久しぶりの蔵之介おじさんいい男だった。

「若君、もういい加減にしてくださいませ」おとまる〜!お前ほんといい従者だよ。まひろが振ったことも身分の差もひしと感じておるのだろう。しかし渋々取り継いだようだ。かくして再びの逢瀬。めちゃくちゃロマンチックなくちづけと抱擁のあと「妻になってくれ」「まひろの望む世を目指す。だからそばにいてくれ」もう最高のプロポーズ。幸せ絶頂回かと思いつつその後モーゼの海割れ並みにぱっくり亀裂が入り、急速に冷えていく二人の心。いや正しくは、女は冷え男は沸騰する。それが結婚という男性有利の契約だ。

「それは私を北の方にしてくれるってこと?」無言の道長。「妾になれってこと?」「そうだ」何を言ってるんだお主は。これは現代人の感覚である。まひろのおじさんも言っていただろう。『北の方に拘らなければいくらでもおろう』『どの女子も満遍なく慈しんでおる』

「北の方は無理だ。」道長のきっぱりとした口調にまひろは頭を殴られたような強い衝撃を受ける。高倉の女の姿が目に浮かぶ。男の足が遠のき涙する女に詠まれたいくつもの和歌が頭の中を駆け巡る。一方で男側だ。遠くの国へ駆け落ちはできない、出世して正しい世にしろ、その出世に欠かせない政略結婚は受け入れられない、まひろの矛盾に道長も爆発する。「北の方でなければいやだ…勝手なことばかり言うな」ああもう辛い回だなあ。道長って今まで怒りらしい怒りを見せてこなかった。感情を揺さぶる女はまひろだけだし、一度は手に入れた女なのだ。なぜ言うことを聞かない。まひろをそばに置きたいだけなのに。道長もまた時代の囚われ人なのだろう。当然のように複数の妻を持つ世界が女をどれほど悲しませているのか理解できない。まひろには学があるからこそ、その歪みを受け入れられない。さらに高貴なお生まれの三郎君は、後ろ盾のないまひろが道長の寵愛という葦藁1本に縋る心細さにも思い至らない。まさに桐壺でございますよ。

「お願いがございます」道長は担当直入に父に申し入れる。なんのお願いだろう。まひろを側妻に、もしくは予告を見るに為時と実資の再雇用のお願いか。自分の結婚をバーターに。いや結婚を条件に持ち出してくるのは兼家か。

愛妾になれなど道長も勝手だなあと思うのだけど、家が貧しくなって下働きに明け暮れるまひろの姿が耐えられなかったのだろうなあ。まひろが野良仕事をする道長の姿を想像できず苦しく思うのと同じように。打毬の部室で散々な言いようだった同僚たち、まひろの訪問を虫ケラが迷い込んだと言い捨てる父兼家が脳裏に浮かぶ。まひろを北の方になどと言い出したら、政局に何の役にも立たない小娘などいじめ倒されるか命を取られてしまうのが落ちだ。有力な北の方に婿入りをし、出世を果たし、まひろを囲う、それが道長の描いた最良の未来絵図であった。

追記)

ご叱責倫子様も恋バナ倫子様も此度は見られて恐悦至極にございます。まひろを何かと気にかけてくださる倫子様だが、まさか互いに同じ男を想起してるなど露とも知らず笑っている2人の姫にひゅっと肝が冷える。予告ではなんだかご立腹の倫子様、狙っていた殿方が自分より身分の高い御方の婿候補になってしまったのかしら(追記:これは違った)。明子様とのバチバチが見ものでございます。