光る君へ9 遠くの国

「遠くの国」

お勉強会で始まるの、定着してきた。倫子様のガチラブを察する取り巻き姫とまひろ。as倫子様の黒木華さん最高なんだ。お菓子もぐもぐ、口角をキュッとあげる様、物言う目線、品があり鈴の鳴るような口調が素晴らしく、手厳しい言葉も嫌味にならない。ゆっくりと手元と袖でお気持ちを表現する様は狂言や歌舞伎にヒントを得たのだろうか。「もったりとしていて好みではなかった」斉信がたいそう失礼な品評をしていたが、そう見えたならその男に興味が無いのである。袖にされて負け惜しみを言うのはみっともない。どう考えても倫子様はその時代の1軍女子だもの。そりゃあ、ききょうは愛想がある。だって人妻のききょうにとって男は自分がまだまだイケるって確認するための媒体だから。

直秀は盗賊だった。視聴者は知っていた。一味として捕縛され連行されたまひろの姿を目の当たりにし、直秀は声も出ない。だが駆けつけた道長によってまひろは釈放される。直秀は安堵するが心の内は複雑だ。まひろが助かったのは道長が上位貴族だったからだ。自分にその力がないことをまざまざと見せつけられる。

一方で心燻り悪意募らせるのは心付けを渡された検非違使だ。盗賊団への便宜のみならず下級貴族女まで釈放させられ、メンツ丸潰れである。あの程度の金では割に合わないと算段する。そうだ、これは不足分だと企みが始まる。道長の後ろ盾となる右大臣様が伏せっていたのも悪条件だった。落ち目貴族の言うことをつぶさに呑み込む必要などなかろう、と。

道長とまひろは人気のない屋敷まで逃げ延びる。おそらく神事や占いの際に住まいを移すための別宅だ。「信用できる者なぞ誰もおらん。親兄弟とて同じだ。まひろのことは信じておる。直秀も」自身の思いを打ち明ける道長東三条殿で今まさに進行しているはかりごとを想起させる。二人きりになっても距離を置こうとするまひろに、距離を詰めようとする道長。「もう三郎とは呼べないわ」それを決意固く押し返すまひろ。遠くの国のイメージ映像として挿入された海辺の波はまさに寄せては返す二人の関係性である。移り屋からの帰り道、あの盗賊たちは義賊だったと知り、尚のこと、直秀とまひろの友愛を取り持とうと考える道長だった。二人の間にほのかな慕情が垣間見えつつも。

ここで8話をプレイバック。兼家の祈祷シーンでは怨霊に腰を抜かす道兼と道隆を尻目にすぐさまイタコを引き剥がそうと飛びつく道長。ある夜には枕元で一族の行末を、生き延びて答えを教えてくれと懇願する道長。兼家は道兼を間者に抜擢したが頼れるのはこの道長だろうと心に定めたはずだ。順番はある。しかし一族を遠く高みまで連れて行けるのはこの男だと。

為時の家を前触れなく訪れた道兼だがおそらくこれも間者としてである。兼家の元を離れようとした為時に翻意がないか、7年前の醜態を世に晒すのではあるまいなと嫌疑をかけられたのである。いや嫌疑をかけられるべきは道兼その方なのだけれど。道兼の家庭訪問に為時もまひろも地雷を踏み抜かずなんとかお試験突破した。もし問答を間違えていたら母と同じく切られていたことだろう。

そうしていよいよ7話終盤から続く兼家の伏線回収ターンである。「今日はお手が温かいわ」「お心置きなく旅立たれませ」声をかけられるやガバリと起き上がる兼家。偽りの病。絶叫する実娘。恍惚とした表情の道兼。すべてが狂言であったのだ。話は回想に入る。瘴気を払ったのは本当のようだ。しかしあのイタコシーンはどこまでが本当でどこまでがお芝居なのかまったく分からぬ。実虚の狭間で途切れ目がない感じ、六条御息所を彷彿とさせる。嘘か真か内裏は怪奇現象が次々と湧いて出る。よしこ様をだしに譲位を促そうと策を張るは安倍晴明。帝に手立てを聞かれ「んんーんんーー。」あまりの大根ぶりに笑ってしまうのだけど、勿体をつけながらも仕舞いにはきっぱりとご出家を提言する。今までユースケだけ下手じゃない?と思ってたのだけど、きっとこれまでも安倍晴明は常にあるべき姿の正しき安倍晴明を演じていた。だからいつも挙動がとぼけているし芝居じみている。だからきな臭い話ができる腹黒い兼家が好きなんだ。脅されて渋々…いやいやけっこう好きなんですよボク、みたいな。もし安倍晴明に未来が見えているなら、なおさらすっとぼけないといけない。知っているけど知ってない振り。だってお命とられちゃうから。

流罪の者を見送りに」「とりべの…」「とりべの!?とりべのとは屍の捨て場ではないか」道長の苛立ちについていかれないまひろだったが屍と聞いてみるみる顔色が変わる。2人は急いでとりべのへ向かう。そのころ呑気に山道を歩いていた散楽衆だが直秀は終始、神妙な面持ちをしている。何かがおかしい。連れ去られた一行を追う道長とまひろ。間に合いそうで間に合わない。いちどずれた刻は戻らない。鴉のむらがる小山を見やるとそこには息絶えた散楽衆が重なり合って横たわっていた。直秀も。「愚かな」道長検非違使にも自分にも非難を向ける。死は穢れ。帝とてよしこ様の御身に触れることはもちろん近づくことすら許されなかった。しかし二人は直秀のみならず散楽衆も丁寧に埋葬する。皆を弔い、大地に返し、二人は泣きながら疲れ果てる。

まさかの直秀退場でびっくりだ。彼がなぜそこまで貴族を恨んだのか、それも藤原を、なぜ当時の絶対的な階級を超えて真正面から恨むことができたのか、と考えると落としだね説はますます濃厚である。彼には回想でまた出てきてほしい。

一夜明けたのか数夜明けたのか定かではないが、弟の門出である。まひろは黄の衣ではなく桃の衣を羽織っている。息子の出立の日、お前が男であったらと改めて父に口に出され、「男であったなら、勉学にすこぶる励んで内裏に上がり、世をただします」まひろも自身の思いを言霊に変えるのであった。

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メモ書き】

蔵人頭藤原実資。「そなたの話はくどい」内裏での台詞はまさに自身が妻に連日言われている言葉である。「わしを公卿にしておけば」ぶつぶつぶつ。まただ。妻のイライラは頂点に。日記の書きなさいよ!!「そうよ日記日記日記!!」「日記には書かぬ!恥ずかしくて書けぬ!」実資が筆を取るのはいつなのか。実際に記録はもう少し後年で、それまでこの女夫コントが続くのだと思うとずいぶん楽しい気分になる。

次回「月夜の陰謀」